政権交代から半年余り。内閣支持率が20%台にまで急落し、新党が乱立する混沌とした政局の中、再び選挙の夏が訪れる。今、政治は、介護とどう向き合い、何をなすべきなのか―。全国老人保健施設協会(全老健)会長の川合秀治氏は「まずは、政治家が介護の現場を知ること」と指摘。また、老健施設が医療・介護の枠を超えた多職種のチームワークによって成り立っている点を強調し、効果的な施設運営を実現するためには「もっと現場での裁量権を大きくしてほしい」と訴える。
―連立政権の介護政策に対する評価をお聞かせください。
白紙です。まだ、評価はできません。
―既に政権成立から半年余りが過ぎましたが、それでも評価は難しいということでしょうか。
少なくとも社会保障分野は、そんなに早く結果を求めたり、評価を下したりできる分野ではないと思います。もちろん、期待はしていますよ。ただ、その一方で不安もあります。政治家の皆さんが、介護の現実をご存じなのだろうか、という不安です。立場上、いろいろな議員の方とお会いする機会がありますが、それでもこの不安は、なかなか払しょくできない。おそらく、老健の関係者の多くは、同じ不安を抱えているのではないでしょうか。
―その不安をぬぐい去るには、政治家は何をすべきと思われますか。
とにかく現場の声を聴いてほしい。門の外から、耳だけを入れて情報を「聞く」のでは意味がありません。老健施設に足を運び、現実を目の当たりにしながら、全身を耳にして職員や要介護者の訴えを「聴いて」ほしいのです。
とりわけ現場に足を運んでほしいのは、昨年夏の衆院選で選ばれた150人強の新人議員の方々ですね。既に半年が経過したとはいえ、まだ彼ら彼女らはフレッシュマンとしての感性を持ち合わせているはず。その感性で医療・保健・福祉の現場を見てほしいのです。「プロらしい政治家」ではなく、「(庶民感覚を持った)プロらしくない目」で現場を見てほしいのです。
場合によっては、われわれが間違った要求をしている場合があるかもしれません。だからこそ、新人政治家にはプロらしくないニュートラルな目で現場を見て、公平に評価してほしいのです。そして新たな可能性を見いだしてほしいのです。それこそが政治の役割ではないでしょうか。
―その新人議員ですが、事業仕分けにも参加し始めました。
事業仕分けだけをセンセーショナルに扱う今の雰囲気には危うさを感じます。このままでは、かつて族議員に多くの関連団体関係者が取り入ろうとしたように、力を持った事業仕分け人にこびへつらい、取り入ろうとする関連団体が出てしまうかもしれません。もちろん、実際にそうなるかは分かりませんが、その危険性はあると思います。
―各党ともマニフェスト作りに本腰を入れ始めています。各党にぜひ公約してほしい内容をお聞かせください。
昨年導入された「介護職員処遇改善交付金」を「介護職員等処遇改善交付金」に変更することです。交付金の対象を介護職に限ったこの制度は、介護関連職の間での所得格差を生みました。そして所得格差は、多職種によるチームワークが不可欠な介護の現場に、大きなひずみをもたらしています。この点は、ぜひお願いしたい。
老健施設を利用する居住者のうち、低所得者を対象とした「補足給付」の見直しも盛り込んでほしいですね。この制度の最大の問題点は、どう見ても福祉政策の中でも経済・財政上での問題でしかないのに、給付は介護保険から出ている点でしょう。結果、年間で約600億円もの介護財源が消えてしまっています。まずはこれを福祉財源から支給するよう変更してほしい。また、居住費・食費の平均的な費用として全国一律で決められている「基準費用額」は、結果として導入前に比べて入居者の食の貧困化といえばいいのかもしれませんが、自由選択の余地が少なくなっていますから、これも撤廃してほしいですね。
―先程、会長もおっしゃられた通り、老健施設では医療と介護のチームワークも重要となってきます。この点で要望したい点はありますか。
老健施設における医療職の配置を、加算ではなく基本サービス費で評価してほしいです。また、個々の医療行為のうち基本的な部分は、介護保険ではなく医療保険で評価してほしいですね。それから、介護老人保健施設と介護療養型老人保健施設という極めてよく似た施設類型が併存する理由も、現場にはよく分かりません。無意味な類型は廃止し、介護老人保健施設が医療機能を十分発揮できるような制度を公約してほしいです。
いずれにせよ、お金の使い方にしても業務面でも、もっと現場での裁量権を大きくしてほしい。われわれを信じ、フリーハンドの部分を増やした制度や施策が欲しいのです。
―2012年には、診療・介護報酬の同時改定が待っています。
次の報酬改定は、国民の生活全体に大きく影響してくるでしょう。それだけに各党には、老健施設の20年余りの活動を総括してから改定に臨んでいただきたい。この間、老健施設は医療と福祉・介護の中間点として、いろいろなチャレンジをしてきました。われわれは、意義のある活動をしてきたと思っていますし、時代を切り開いてきたと自負しています。でも、国政という大所高所から見たとき、老健とはどんな意義を持っていたのか。そして今後、どうあるべきなのか。できれば、夏の参院選までにその点を明確にし、公表してほしいですね。
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